夏、恐怖の一幕

日記

深夜のお風呂、髪を洗っている時、洗顔している時等、自分の背後や鏡に映った物、誰もが一度は何故か言い知れない恐怖を感じた事は有るだろう。
物音しない深夜、閉鎖的な空間、無防備な裸の状態の現実感を残しつつも非日常が交差する状態が恐怖を呼ぶのかも知れません。

これは私が深夜お風呂に入った時に実際に体験した出来事です。(simo3355さん 仮名)

残暑が残る、9月の初めいつも通り、お風呂に入っていた。
秋が近づきつつあるとは言え、まだ湿度が高い日が続いていて風呂の中は温まったお湯が湯気となり、身体に湿気が纏わりつきベトついた感じがする。
そのベトつきをスッキリさせる為、早く湯船に浸かりたい衝動に駆られていた。

シャワーで軽く体全体を軽く洗い流し、まずはぬるめの湯船に浸かって、いつもの様に持ち込んだタブレットで短めの動画を2・3本見ながらリラックスしていた。

そろそろ、身体も温まって来たので湯船から出て、身体を洗う事にする。
いつもの様に最初は顔から洗顔し、頭を洗う、湯船に抜け毛が入るのが嫌なので頭を先に洗ってから体に絡みつき残った髪を体を洗う際に纏めて洗い流すようにしている。

顔を洗顔し終り目の前にある鏡を見る、湯気の水滴が鏡を覆い鏡がいつもの様に曇っていて自分の顔がぼやけて映っている。

続いて洗髪に移り、髪を軽く濡らしシャンプーのポンプを押し、洗髪料を出して手で泡立ててから髪に付けて「洗い出す。
両手の指で少し強めに揉む様に洗い、シャワーで洗い流す。
一度だと、洗った様な気がしないのでもう一度、同じ様に洗髪し今度は、お風呂に予め置いてある、ブラシを手に取る、洗髪用のブラシではなく普通の髪を梳かす為のブラシで髪と頭皮をブラッシングしている為か頭皮が健康で割と毛量は多い方だと思っている。
泡をシャワーでよく洗い流した後、薄く目を開いた状態で鏡を見た時、黒い影が動いた様な気がした。

私はホラー映画などは好きなのだけれど、あくまで娯楽のひとつとして好きであって、霊等は全く信じてはいないのだが、背筋に寒気が走る、おそらくは人間の本能的な物なのだと思いつつ、気にしない様にし身体を洗う事にした。

そのまま、椅子に座った状態でタオルに石鹸を付けて泡立て、少しだけシャンプーも付けれきめ細かく泡立ててから、最初は左腕、右腕と洗っていき上半身が洗い終わって下半身に移ろうと椅子から立ち上がろうとした時、ふと異変に気付いた。

それと目が合ってしまったのだ、黒い身体、黒い顔に漆黒の目をしたそれは、私を静かに見ていた。
それには白めが無いので、正確には私を見ていたのかは分からないのだが、目と目が合った瞬間、確実にそれも私を見ていると言う確信があった。

それは、いつもは気配を消していて身体も小さいが、一度姿を現すとその存在感は大きく、グロテスクな容姿をしている。
それは、シャワーヘッドをかけるフックに静かに鎮座していた、目が合った瞬間、互いに「やっべ」と感じているのが分かる。

私は、それを見たくも無いのだが、どうしてもそれから目が離せずにいた。
そして、混乱していたが、直ぐに冷静さを取り戻し、どの様にして、それと対峙しどうすれば最善かを考えていた。

前身は泡だらけ、恐怖感が有りつつも、このまま風呂から出たら外に泡が落ち掃除が大変だろうな・・・と言った現実的な事も考えも抱いてしまい、この場で対処できる方法を考える。

下半身をまだ洗っていなかったので、それから目を離さない様にし、取り合えず洗っていきながら、対処を考えていた時、気付いた事が有った。
奴は、少し疲弊している様に思えた、いわば手負の者と言う事だ、下手に刺激すると最後の力を振り絞り、よりその凶暴性を発揮してくるだろう。

そんな事を考えていると身体を洗い終わった、ここは風呂場である、武器になりそうな物が見当たらないままでなので、何とかお風呂から一旦出て武器となる物を取って来たいのだけれど、未だ全身泡だらけで、この泡を洗い流すにはシャワーの水を出し、シャワーヘッドを手に取らなくてはならないのだけれど、そこには奴が睨みを利かせつつ陣取っているので、シャワーで洗い流すのは不可能である。

そこで、湯船のお湯を掬い全身の泡を洗い流す方法も考えたのだが、その方法で洗い流す場合、どうしても大きな音が出てしまう、互いに一触即発のこの状態で大きな音を立ててしまったら、おそらく奴は捨て身の暴走に出るだろう、その場合、奴の行動が読み難く対処出来なく奴に後れを取る事になってしまうだろう。

そう、私は既に奴の策にハマっていた。
只々、そこに鎮座する事で、無防備な状態で私をお風呂に軟禁し脅威となる武器を私がもってこれない様にしたのである。

万事休す、認めよう私の好敵手だと。
奴の策にハマったとはいえ、奴も動けずにいる。
奴は状況を悪くならない様する事には成功した様だが、奴が有利と言うわけでもないので何か好転出来る方法がある筈だと、奴を警戒すつつも周囲を見渡してみる。

洗面器、大き過ぎる、シャワーヘッドとフックの間には入らない。

石鹸、各種ボトル類、これらも同じである。

覚悟を決め素早くシャワーヘッド掴み、水を出し奴を水攻めにするしかないか、とも考えたら、湯船を除けばお風呂場は約、一畳程度しかない狭い空間なので奴が私より素早く動いたり、水流をかける事に失敗した場合、私は奴にやられるだろう。
この緊張感の中、冷静にそして正確にそれが出来るだろうか。

だが、もうそれしか方法はない、と思った時、一筋の光が見えた気がした。
洗剤ボトルではあるがノズルが付いており、ノズルを握ると洗剤が飛び出す最終兵器カビキラーである。
お風呂のタイルにカビが出来た時、直ぐに対処できる様にお風呂場内に置いていた物で有る。
いつもお風呂から出る直前にお風呂場全体をシャワーで洗い流しているのでそうそうカビが生える事は無いのだけれど、たまにタイルとタイルの間だとか、隅っこなどにカビが生えてしまっている事が有るのでそこに吹き付ければ特に擦らなくてもカビの対処が出来るので、常備していたのが幸いした。

泡で出るタイプなのでそれ程、遠くまで飛ぶ物ではないが、うまく奴の後方から吹き付けれれば逆に泡が奴の全身を包み込み暴走を抑える事も出来るかも知れない。

まずはシミュレーションしてみる、カビキラーを吹き付けられて奴はどう動くだろうか、泡の中を藻掻きつつも何とか抜け出し、こちらに襲い掛かってくるかもしれない。
追い打ちのカビキラーを発射した後、息絶えたのを確認しシャワーでその亡骸を流す事になるだろう。
奴が最終的に行きつく所は、お風呂場の排水溝である。

お風呂場の排水溝は抜け毛が直ぐに取れる様に予め台所の三角コーナー用のポリエステル製の網を付けているので奴の亡骸がそこに入っても処理は簡単にできる。

まずは排水溝の蓋を外して置きスムーズに奴の骸を流せる様にして置く。

一通りのシミュレーションをし終えた私は出来るだけ静かにそしてゆっくりと動き、カビキラーのボトルを手に取る。
そして、お風呂場の端に向かって試し撃ちをしてみる。

思った通り、それ程、遠くまでは飛ばない物の通常の洗剤よりも強力そうなアルカリ性の泡はしっかりと出る事が確認できた。
奴に睨みを利かせ威圧をかけつつ奴が先に動いた際は素早く対処出来る様に警戒しながら、左手でカビキラーのノズルに指をかけ、奴の後方から狙いを定める。

緊張しながらもカビキラーのノズルを引いた。
カビキラーの先端から泡が飛び出し見事に奴に命中した。
更に追い打ちをかけ、二度三度と泡を吹きかける。

奴は藻掻きながら泡の壁を突破し、シャワーヘッドのフックから落ちる。
許を突かれて焦っているのか奴は、取り合えず物陰に隠れようとしてボトル類の間に入り込んだので、前方から泡を打ち付ける、更に左右からも追い打ちをかけ、上からも止めとして泡を打ち込む。

奴は重厚な泡に包まれながらボトル類の間で藻掻き苦しんでいる様で、カサカサと言う音ではなくガリガリと言うカブトムシを思わせる様なパワーで多重になっている泡の壁から抜け出そうとしているが、やがて静かになった。

一応、念の為にカビキラーのノズルを2度ほど引き、数分様子を見る。
やはり、もう動いてはいない様である。

そのまま、シャワーヘッドを取り奴にかけてみたが、やはり流されるだけで微動だにしない。
奴は死んだのだと確信し、シャワーの水流で誘導し排水溝に奴を流し込むことが出来た。

その後、奴の仲間が潜んでいないとも言えないので、お風呂場の隅々を確認するが、いない様だった。そして、やっと私自身の全身についた泡を流し落とし、疲れたので一旦、排水溝に蓋をし、まずは湯船に浸かりこの、緊張感と変な興奮と疲れを取る事にした。

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